収差

仮想的なレンズと実際のレンズ

これまでの説明で使ってきたレンズは、平行光線を1点の焦点に集め、物体と完全に同じ形の像が平面にきちっとできる仮想的なレンズ、理想レンズ(perfect lens)でした。

理想レンズは例えば点A,B,Cからでた光をそれぞれ1点に集め、点A,B,Cの位置関係とそれらの像A’、B’、C’の位置関係は上下左右が入れ替わる他は全く同じになります。

しかしながら、実際にこの図のような単純に両側に膨れたレンズ(両凸レンズ)を使うと、大体下図のようになります(焦点距離は上図の理想レンズと同じ)。

理想レンズではない実際のレンズでは、このように点の像が点にならず、光軸(レンズの中心を通る線)から外れた点の像のできる位置もレンズ側に寄ってしまっています。このような理想レンズとは違う光の集まり方をする現象は「収差」と呼ばれています。

写真レンズの重要な特性は開放F値と焦点距離ですが、同じ開放F値と焦点距離でも収差の残り具合によってその描写はかなり違ったものになります。この収差は材料のガラスや形状の異なる複数のレンズを組み合わせることで、ある程度コントロールすることができ、レンズ設計とは如何に収差を無くすか(あるいは好ましい収差にするか)が重要であり、また難しいポイントであろうと想像できます。

収差の種類

収差には光の波長、つまり色と関係ない収差と、光の波長の違いによって発生する収差があります。色と関係ない収差には「球面収差」「像面湾曲」「コマ収差」「歪曲収差」「非点収差」の5種類があり、1856年に収差に関する論文を出版したルートヴィヒ・ザイデルの名前を取ってザイデル収差とか、ザイデルの5収差と呼ばれています。

恥ずかしながら収差の計算は少々私の手に余るので、イメージのみの説明になってしまいますがご容赦下さい・・・。

球面収差

レンズの曲面は、ほとんどの場合球の一部を切り取った面、つまり球面です。球面で構成したレンズで集めた光線は1点に集まらず、レンズの外側を通った光ほどレンズに近い位置に集まってしまい、像面にできる像はぼやけてしまいます。この収差は「球面収差」と呼ばれています。

レンズの外側に行けば行くほど光線が集まる位置がずれるので、絞りを絞ると収差が改善します。ただし同時に、絞りを絞るほど一番綺麗な像が得られる面がレンズから遠ざかっていきます。

絞り

像面湾曲

理想的には平面の像はやはり平面になるべきなのですが、単純なレンズでは光軸から離れた点の像ほどレンズ側に近くなり、像面がお椀状に湾曲してしまい、それを像面湾曲と呼びます。

像面湾曲があると、画面の中心にピントを合わせると周辺部がぼけ、逆に画面の周辺部にピントを合わせると中心付近がぼけます。また絞りを絞っても改善しません。

絞り

コマ収差

画面周辺部に点状の被写体があるとき、像の周りに画面の外側に向かって尾を引くようなぼけが生じることがあり、これをコマ収差と呼びます。図のように光線が散らばるために起きる収差です。絞りを絞ることで改善することが可能です。

彗星の回りにできるボヤッとした雲状のものをコマというのですが、尾を引くような形がこれに似ているのでコマ収差と呼ぶそうです。ちなみに彗星は英語でコメットと呼びますがこれはギリシャ語で「長い髪」を、コマはギリシャ語で「髪」を表す語が語源とのこと。

絞り

歪曲収差

理想的には点Aと点Bの距離と点Bと点Cの距離の比は、その像A’とB’の距離とB’とC’の距離の比に等しくなります($AB:BC=A′B′:B′C′$)。例えば点A,B,Cが等間隔に並んでいたら、像A’,B’,C’も等間隔に並ばなくてはなりません。

しかしそうはならず、像A’B’の長さがB’C’の長さに比べて長くなったり短くなったりします。これを歪曲収差と呼びます。A’B’の長さが長くなると像の中心部が凹んだようになり、これを糸巻き型収差、逆にA’B’の長さが短くなると像の中心部が膨らんだようになり、これを樽形収差といいます。

下図は歪曲収差のない理想レンズです。

望遠レンズでは糸巻き型収差が、広角レンズでは樽形収差が出やすい傾向にあります。また両者が組み合わさった陣笠型収差というものもあります。特に建築物など直線を含む被写体で目立つ収差です。他の収差と比べてデジタル補正が行いやすく、近年(2021年からみて)は特にデジタル補正を前提として歪曲収差を残した写真レンズが多くなって来ているようです。というのはレンズ設計で収差の補正をするときに、例えば歪曲収差を補正しようとすると像面湾曲が悪化してしまうとすると、デジタル補正で補正しやすい歪曲収差を残しながら、像面湾曲を光学的に補正する方がトータルで綺麗な像が得られるという事情があるそうです。

非点収差

非点収差はザイデルの5収差の中で一番理解と説明のしにくい収差です。そして図示も難しめなのでまだ図がありません・・・。申し訳ありません。

今までレンズの解説図はすべてレンズの中心を通る断面を図示してきました。しかし実際の光は当然、図より手前側や図の奥側も通ります。今まで図示してきたようなレンズの中心、光軸を通る面を子午面あるいはメリディオナル面といい、それと直交し主光線(絞りの中心を通る光)を含む面を球欠断面あるいはサジタル面と呼びます。

子午面を通過した光線の集まる場所と、球欠断面を通過した光線の集まる場所がずれるとボケが生じ、これを非点収差と呼びます。

非点収差があると、画面全体を覆う同心円状のボケが生じ、俗に「ぐるぐるボケ」と呼ばれる状態になります。そこまで目立つぐるぐるボケが生じるレンズは現在なかなかありませんが、ロモグラフィーが販売した、写真の歴史上最古のペッツバールレンズの復刻版などではかなり特徴的なボケを見ることが出来ます。

色収差

光は波長によって人間に認識される色が異なり、人間には波長の長い方から赤、黄色、緑、青、紫に見えます。光の波長の違いは人間による見え方だけの違いのほかに、レンズ等による屈折のしやすさにも影響し、波長が短いほど屈折率が大きく(屈折しやすく)なります。

下図はかなり誇張してありますが、青い光は緑の光よりもレンズに近い側に、赤い光は緑の光よりもレンズから遠い側に像を作ります。こうなると、像の周りに色が滲んだような縁取りができ、これを色収差と呼びます。色収差は光軸に平行な光による軸上色収差と、光軸から離れた点から入る光による倍率色収差に分けられますが、波長の短い光がレンズに近い側に、波長の長い光がレンズから遠い側に像を作るという現象は同じです。

レンズ設計による収差の補正

収差の多くはレンズの曲面が球面で構成されていることが1つの要因です。だったら球面を使わなければいいのですが、曲面を加工する際、球面と比べて他の曲面を作るのが極端に難しいため、ほとんどの場合レンズの曲面は球面で構成されています。球面でない曲面を使ったレンズは非球面レンズ、アスフェリカルレンズと呼ばれており、これを使った写真レンズはそうでないものよりも高性能で高価な場合が多いです。

球面のみで構成されたレンズでも、性質の異なる複数のレンズを組み合わせることで球面収差を補正することは可能で、多くのレンズではそのようにして球面収差の補正を行っています。ただし他の収差の補正にも言えることですが、レンズの枚数を増やすほど写真レンズは重くなり、透過する光の量も減って暗くなってしまいます。

どのようなレンズを、どのように組み合わせて収差の少ない、目的の性能をもったレンズを設計するか、カメラが発明されてから100年以上も研究が続けられています。

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